Archive for 小説

六月展

 6月4日~11日の期間において、Cスクエアにて写真研究部の展示会「六月展」が開催された。これは、中央大学写真研究部が毎年この時期になると行っている展示会であり、当紙面でも幾回か取り上げている。
 六月展のテーマは自由だ。被写体やカメラの選択から色調、プリント方法に至るまで制限はない。各部員が各々撮りたいものに取り組み、仕上げた作品が展示されている。
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駿河台の記者たち㉘

駿河台の記者たち[28]

長瀬千年・作

 

中央大学新聞

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黄金週間が明けた最初の日曜日、新聞学会の新入会員歓迎会で、志朗らは上野から電車で埼玉県長瀞に向かった。新人は2年生2人と、1年生5人。対する現役は4年生の会計、3年生の編集長と取材部長、それに2年生1人だ。

「まだ入会して5日目。そのうち2日間は旗日だったんだよ。それなのに、遠出の歓迎会とは豪勢だね」
「これからは、忙しくて授業に出られないというから、おれたちを今のうち、甘い汁でつなぎとめようということなんじゃないの?」

 途中、熊谷で乗り換えた秩父鉄道の車内。制服姿の1年生の男が4人掛けの座席に収まり、入会したばかりの新聞学会について、あれこれ詮索(せんさく)している。同じ1年生でも女子1人の坂田は、新人の2年生2人の席で、何やら話し込んでいる。
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駿河台の記者たち㉗

駿河台の記者たち[27]

長瀬千年・作

 

中央大学新聞

10
「2面のもう一本の依頼原稿、連載の『私の研究』はどうなっている?」
「法学部教授の田村幸策〈外交史〉で、もう届いてます」
「あぁ、我々の顧問ね。次回だったのか。内容は分かり易い?」
「まぁ、まぁです」
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駿河台の記者たち㉖

駿河台の記者たち[26]

長瀬千年・作

 

中央大学新聞


 次いで2年生の今図が▼安保阻止の5・14統一行行動に向け、昼・夜自治会の各討議内容とスケジュール▼青年像建立資金へ寄付1件(5千円)を報告した。

 青年像資金の寄付とは、 駿河台キャンパスの殺風景な中庭に、 シンボル像を建立するための学内キャンぺーン。始まったのは2年前、中大新聞が創刊500号記念で学生歌の歌詞を募集。1席入選の学生(法2)が賞金1万円を基金にし、募金100万円を目標に青年像の建立を呼びかけたのだ。

 最後は伊沙山。4年生らしく就職戦線の動きとして、人事部から得た会社説明会の日程だった。 さらに付け加えた。
「コラム『波紋』は、おいらが書くよ。テーマは、春のうららに揺れるわがキャンパス。大学移転計画も視野に入れた、一種の恨み節をね」
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駿河台の記者たち㉕

駿河台の記者たち[25]

長瀬千年・作

 

中央大学新聞

8
 これに対し1年生は、 志朗も含めて詰め襟の学生服だから、いかにも自信なさそうに映った。 実際に4人とも、自分の名前と出身地を名乗るのが精いっぱい。 「青森の原田です」「富山の玉川」「群馬の塩野」「岐阜の流です」と、わずかに名乗っただけだった。だが、ブレザーにスカートのぽっちゃり型の女子は、「経済学部の坂田恵美子」のあと、さらに続けた。

「私、卒業後は新聞社に就職したい、と思っています。ですから、横浜の親元から通学はしていますが、必要があれば夜も終電まで皆さんと一緒にがんばります。よろしくご指導ください」
志朗ら1年生の男は出し抜かれた形で、いよいよ寡黙を続けるほかなかった。
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駿河台の記者たち㉔

駿河台の記者たち[24]

長瀬千年・作

 

中央大学新聞

 2日後、志朗は新聞学会に出向く前、何はさておき、英語の授業に駆け込んだ。クラス委員の大原ら3人に手をすり合わせ、これからの〈代返〉の役を引き受けてもらうためである。

「おれ、新聞学会に入ることになった。忙しくて語学の授業にさえ、出席できないことが多いらしぃ。欠席の時は、ぜひ代返を頼みたい。ドイツ語の授業もだよ」

 志朗にとってこの3人は、入学以来まだ3週問足らずの友。先の4・26安保闘争デモに向け、自治会の要請でクラス委員を買って出、苦労の末に授業放棄の多数決に導いた”戦友”なのだ。

「任せておけ」
「新聞のサークル、がんばれよ」
 3人は即座に引き受けてくれた。
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駿河台の記者たち㉓

駿河台の記者たち[23]

長瀬千年・作

 

中央大学新聞

 すると、取材担当の井多がピリリと締めてきた。
「活動の内容は取材に原稿書き、その合間に広告取りに紙面編集、印刷工場で活版組の立ち合い。さらに新聞の立ち売りもあります。10日に1度、これだけの作業を繰り返すわけだから、まず授業には出られなぃと、覚悟してもらわなければなりません」

 志朗が質問した。
「そのつど、出欠を取られる英語やドイツ語、それに体育もですか」
「それは授業開始の出欠の点呼の際、代わりに返事をしてくれる友人を、確保してもらうことだね」
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駿河台の記者たち㉒

駿河台の記者たち[22]

長瀬千年・作

 

中央大学新聞

 次は面接試験。 新聞学会の会室に移った。
「どの机でも自由に座って、奥からお呼びするまで待ってください」
 事務の女性が、入室した志朗らにお茶を出した。

 面接は隣の別室ですでに進んでいて、ドアが閉まっていた。 会室の中を見回すと、横壁の一方の棚上に大袋が大雑把にいくつも積んである。はみ出した袋に〈第××号〉と書いてあるから、売れ残った古い新聞か。
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駿河台の記者たち㉑

駿河台の記者たち[21]

長瀬千年・作

 

中央大学新聞

 配られた用紙に目を通した志朗は、一般常識から取り掛かった。時事用語らしき文言が5個並び、麗々しく「その意味を記せ」とある。何だ、これは? 出題の文言を見ると、知っている言葉は2つだけ。一般常識というから、簡単に答えられる問題と思っていた志朗は、面食らった。

 答えられた1つは、「フィラデル・カストロ」。キューバ革命で米国寄りの政府を倒し、革命政権を樹立したキューバの初代大統領である。米国がキューバを敵視し、カストロがソ連に接近して社会主義国に進む様子を、志朗は高校時代に固唾(かたず)をのみながら見守ったものだ。
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駿河台の記者たち⑳

駿河台の記者たち[20]

長瀬千年・作

 

中央大学新聞

 掲載されている2枚の写真が、またすごい。1枚は「装甲車を乗り越える本学自治会幹部」の説明で、学生数人が懸命に突破する様子が真正面から捉えられている。手前には警官の後ろ姿も見える。志朗も乗り越えた、あの装甲車である。

 もう一枚は、「私服の警官に捕らえられる藤沢慶久君」の説明。 両側から腕をつかまれ、歯を食いしばり無念そうにカメラをにらむジャンパー姿が、志朗の目を釘づけにした。テレビ・ドラマかと思うほど、ドンピシャリのタイミングである。

 本職の新聞カメラマンも、顔負けの2枚というほかない。それにしても国会デモの取材中、わが大学集団の行動に目を注ぎ、カメラで狙い続けていた結果に違いない。容易ならざる中大新聞の記者魂に、志朗は唸った。

 紙面づくりにも、驚かされた。1面トップの前文の末尾に、丁寧にも「関連記事は2面に」とある。まるで一般紙と同じ編集手法だ。その2面のトップ記事は、大きく紙面を割いた国会デモのルポだ。「警官・右翼と乱闘/反主流は整然と請願」の見出しで、主流派と反主流派の行動を丁寧に追っている。
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