駿河台の記者たち㊽

駿河台の記者たち[48]

長瀬千年・作

 

国会突入

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 志朗はやるせない思いで、夏休みながら最後の中大新聞発行に取り組んだ。建てページは5月の大型連休中と同様、表裏の2ページ建て(定価5円〉である。紙面スペースに制約はあるが、曲がりなりにも〈安保総括特集〉をめざした。

 1面トップは、昼自治会のドタバタ”政変”である。本記「三役は反主流派の手に」と、解説「主流派、無残な退敗/保守派は勢力のばす」となった。志朗が取材した3派分裂の全学連大会は、1本の大型解説記事となり、見出しは「全学連大会=解説/事実上3つに分裂/革共同も独自の大会開く。記事は150行に及んだ。

 2面は安保関連の依頼原稿2本。6・15国会突入の日に逮捕され、3晩留置された法学部3年生の『獄中手記』と、もう1本は東大大学院生(政治学史)の『大衆エネルギーの動向』だった。

 獄中手記には、身につまされる。さわりを紹介しよう。
 〈午前零時すぎ、中大は国会近くの歩道に集結。前方では、死者を出して怒り狂った学生たちが、次々とトラックを引きずり出して火をつけ、夜空を赤く染めた〉

 〈強い雨に打たれ、全身はぐっしょり。僕は空腹と寒さでがたがた震え、疲れてこっくり。何度も頭を前の背中にぶつけた。夜が明ければ、夜が明ければ。この混乱した社会にも、夜明けの兆しが見えるかも~。朝までこのまま、辛抱しようと決意した〉

 〈午前10時すぎ、警察が催涙弾使用をアナウンスすると、前方の武装警官が警棒を振り上げて突進してきた。足元に落ちる催涙弾と警棒。逃げ場を失い、金網をよじ登って入ったら、警視庁の敷地内。建造物侵入の現行犯で逮捕された〉

 〈留置場では泥棒5人と同居。疲れ果てたが、寝る時間以外は横になれない。壁にもたれて眠りこけた。初めてジャムと新香入りコッペパン一つ半の昼食。ウマイ〉

 〈公安課の調べは、国会乱入の質問ばかり。逃げ惑った末の不法侵入だから、すぐ釈放されるだろう。しかし、取調官から学生運動を全否定され、国際共産主義者に脅されるな~などと挑発されると、我慢できずに反発した〉

 〈泥棒たちは有価証券偽造、窃盗、前科3犯など強者(つわもの)ぞろい。1人から『社会主義の手ほどきを』と請われ、驚いた。こうして同じ環境下なら、犯罪人にも欲望はなく、素朴な善人なのだ〉

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