駿河台の記者たち㉛

駿河台の記者たち[31]

長瀬千年・作

 

国会突入

1  
 編集会議から広告取り、新聞製作の立会いから販売まで、中大新聞の10日間ごとの作業をひと通り体験した新人たちは、各担当部署ごとに本格的な取材活動に組み込まれた。

 自治会担当の志朗と玉川は、2年生の今図にくっついて自治会室へ。3号館校舎前の道路を挟んだ、木造2階建てである。学生生協が入っており、その一角の1階手前が昼自治会。その奥が夜自治会だった。

 昼自治会室は会議中でもないのに、怒鳴り声が乱れ飛んでいた。志朗と玉川は名刺〈新聞学会/自治会担当〉を渡そうとしたが、それどころではない。
1つのグループは、5・13安保改定阻止の国民会議統一行動をめぐる激論だ。主流派は「お焼香デモ」とののしり、反主流派は「極左冒険主義」と相手を否定。互いに噛み付き合わんばかりの形相である。

 もう一方の集団に耳を傾けると、応援団員が学内で一般学生に暴力を振るった問題であった。以前にも同じ行為があったようで、自治会執行部は「この際、応援団の活動停止が相当」とし、もう一方は「スポーツ各部の士気に影を落とす」と、応援団の組織体制の見直しを求めて食い下がっているのだ。

「この応援団問題、表面は部員の暴力事件だが、背景に大学生協問題が絡んでいて、一筋縄ではいかないんだ」
 今図が2人に、その背景の要点を説明した。

 大学生協も自治会と同じように、学生の会費による収入と、選挙による役員で執行されている。ただ自治会との大きな違いは、生協は売店などで利益を生み、職員の雇用や販売の損失などを伴う経営体であること。

学生運動の闘争に忙しい自治会は、七面倒な生協運営から遠ざかった。気が付いたら、保守派が生協の中核に収まり、自治会側はそこからはじき出されていた。

 自治会は「これはまずい」と焦っている。特に神経を尖(とが)らすのは、生協は利益を生む組織。だから、その運営をけん引する保守派が、おいしい資金源にしているのではないか、と疑念を持っている。

 そんな時、今回の応援団員の暴力事件である。保守派のバックボーンはスポーツ各部。応援部もその系統だから、自治会としては応援部を活動停止に持ち込み、保守派を叩いておきたいというわけだ。

「へぇー、なるほど」
志郎は昼自治会室で、口角泡を飛ばす全学連の主流派と反主流派。さらにその一方で、生協の蜜の香りに連なる保守派が、票田のスポーツ系応援部を守ろうとする構図を目の当たりにして、これからの取材に興味をそそらされるのだった。

 昼自治会から戻ると、この日は中大新聞の次号の原稿締め切りらしい。編集長以下4人が会室で原稿書きに勤しんでいた。夕刻、志郎と玉川は2人だけで、今度は夜自治会に顔を出した。

 昼自治会と打って変わって、会室は物静か。話し合っていた山田委員長(法3)と、栗山書記長(商3)に名刺を渡した。この執行部は前年暮れの総会で、無投票で選ばれた日本共産党系の全学連反主流派。2人とも党員だという。

 そこへ1人の活動家が入って来て、山田と栗山に議論を投げかけた。
「カッキョウドー~反帝国主義~反スターリン主義~黒田・本田派~プロレタリア独裁~」

 志郎にはチンプンカンプンの言葉が、矢継ぎ早に飛び出した。山田らは時々うなずくだけで、反論はしない。暖簾に腕押しと感じたのか、相手はやがて部屋を出て行った。

 この時、志郎が感じた昼自治会との相違は2つ。夜自治会は昼間働く夜学生だから、社会常識を心得た大人という感じ。昼自治会がやんちゃ集団とすると、こちらは穏やかな労働者集団か。
―――つづく=毎週水曜日に更新します

Comments are closed.