駿河台の記者たち㉘

駿河台の記者たち[28]

長瀬千年・作

 

中央大学新聞

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黄金週間が明けた最初の日曜日、新聞学会の新入会員歓迎会で、志朗らは上野から電車で埼玉県長瀞に向かった。新人は2年生2人と、1年生5人。対する現役は4年生の会計、3年生の編集長と取材部長、それに2年生1人だ。

「まだ入会して5日目。そのうち2日間は旗日だったんだよ。それなのに、遠出の歓迎会とは豪勢だね」
「これからは、忙しくて授業に出られないというから、おれたちを今のうち、甘い汁でつなぎとめようということなんじゃないの?」

 途中、熊谷で乗り換えた秩父鉄道の車内。制服姿の1年生の男が4人掛けの座席に収まり、入会したばかりの新聞学会について、あれこれ詮索(せんさく)している。同じ1年生でも女子1人の坂田は、新人の2年生2人の席で、何やら話し込んでいる。
 
 授業に出るより新聞活動の方が面白い~と割り切っている志郎は、窓外の田園風景に目を移しながら、もっぱら聞き役である。ただ気がかりなことはひとつ。1年生のほかの4人のうち、何人が最後まで新聞学会に留まれるのか、であった。どんなことがあっても、おれは決して脱落しない~と、志朗は強く自らに言い聞かせた。

 長瀞は秩父盆地の北端。山々に囲まれた荒川と変化に富んだ奇岩の数々が、関東の景勝地・長瀞渓谷を造り上げている。志朗らは優雅にも川下りまで楽しみ、郷土料理〈ずりあげうどん〉を食べた。往復の交通費も含め、すべてを会計の伊沙山が清算し終え、いたずらっぽく笑った。

「あしたからまた、取材して書いて、広告取って、新聞売ってもらえりゃ、お安いもんで~」

 その翌日は朝から全員で、神保町から都電で九段下にある日刊工業新聞まで出向いた。5月第1旬の新聞発行のため、印刷工場で立ち会いである。志朗らは全く気付いていなかったが、新人以外は連休中に会室に出て、原稿書きや見出しづくり、4面分のレイアウトの準備を終えていたのだ。
 
 工場でまず、制作スタッフに原稿類を渡した。高校新聞局に3年間在籍した志朗には、すでに経験済みの工程だ。ただ街の印刷屋と違って、こちらは新聞社の工場だから、規模がまるで違う。手渡した原稿や見出しが小1時間で、活字組みのゲラとなって出てきた。1本ずつ間違っていないか、全員で原稿と見比べて校正。赤字を入れて工場へ戻した。

 日刊工業新聞は中大新聞OBが、3人ほど入社しているという。事務員の川町の夫もその一人で、そんな縁もあって中大新聞の印刷を頼んでいるらしい。それにもともと朝刊紙だから、工場部門の仕事が空いている夕方まで、他の新聞の外注を受けて稼いでいるようだ。

「もう昼だ。近くでパンと牛乳、人数分買ってきてくれ。領収書、忘れないようにね」
 伊沙山が千円札を1枚出し、1年生の坂田と塩野が買いに出た。

―――つづく=毎週水曜日に更新します

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