駿河台の記者たち㉒

駿河台の記者たち[22]

長瀬千年・作

 

中央大学新聞

 次は面接試験。 新聞学会の会室に移った。
「どの机でも自由に座って、奥からお呼びするまで待ってください」
 事務の女性が、入室した志朗らにお茶を出した。

 面接は隣の別室ですでに進んでいて、ドアが閉まっていた。 会室の中を見回すと、横壁の一方の棚上に大袋が大雑把にいくつも積んである。はみ出した袋に〈第××号〉と書いてあるから、売れ残った古い新聞か。

 もう片方の壁の上方には、横長の模造紙にマジックぺンで総長室、学長室~昼自治会、夜自治会などの名前と4けたの番号。大学内の電話番号だ。その横に東映、リコー、山一證券など企業名と局番付きの電話番号がいくつも並んでいる。広告スポンサー名なのか。

 別室のドアが開き、緊張した表情の替え上着姿の1人が出て来た。 面接が終わったのだ。何人目かで志朗が呼ばれた。 中に入って名前を告げ、所定の椅子に座った。部屋は廊下側の壁に向けて細長く、両側にソファーが1つずつ置かれている。奥の中央に、先ほどのスーツ姿の男性が腰掛けている。

「筆記試験はどうでした?」
 真ん中の男性が、こんどは柔らかい笑顔で切り出した。3年生で編集長の優内康則だという。両脇の人は編集次長で、1人が4年生で会計担当の伊沙山茂雄、もう1人は3年生で取材担当の井多陽二。目下の陣容はほかに2年生1人だけで、それにOBの奥さんの河町照子が事務を手伝っているのだと分かった。

 えっ、本当にその人数で、10日に1度ずつ新聞を発行しているの? 4年生は本当なら引退のはずなのに、人数不足のため業務を手伝っているのだ。志朗は一瞬、とんでもない所に足を踏み入れるのだと、一抹の恐怖を感じた。しかし一方で、だから面白くてやりがいがある、それが大学生活の醍醐味だ~と好奇心もかきたてられた。

 優内編集長が言った。
「実は3年生と2年生になる何人かが、退会してしまってね。今は、いわば非常事態。だから今回は1、2年生から出来るだけ多く、入会してもらいたいと考えています」

 そのあと、4年生で会計担当の伊沙山が付け加えた。人柄か年の功なのか、人懐っこい笑顔を絶やさない。会計担当らしく、ニコニコしながらいくつか数字を並べた。
「ただこの新聞学会は、他のサークルとは全く異なります。2ヵ月の見習い期間を経て正会員になったら、1年生には1ヵ月に千円の手当てが出ます。原稿書きなど夜8時を過ぎて活動する場合は、夜食も出します」

 〈1ヵ月千円の手当て〉と〈夜食〉に、志朗の気持ちは大きく動いた。親からの仕送りが月に8千円だから、千円の手当てが出れば、50円の定食が20回分も浮くではないか。

―――つづく=毎週水曜日に更新します

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