駿河台の記者たち⑯

駿河台の記者たち[16]

長瀬千年・作

 

60年安保


 
 教室から出ると、大講堂の前はすでに喧騒の渦。学生の何人もが、ハンドスピーカーでがなり立て、大量のビラを配っている。注意してみると、学生たちは2つに割れて、互いに攻撃していることを、志朗は初めて知った。

「全学連のもと、大衆的国会請願で安保を粉砕しよう。 お焼香デモに、まやかされるな!」
 ブントが主導する昼自治会のアジは、絶叫調だ。

「国民会議のもと、統一ある整然とした請願で、安保を葬ろう。極左冒険主義は、認めないぞー!」
 一般学生にソフトに呼びかけるのは、昼自治会反主流派。全学連の方針には同調できない~とする、三津端彬中央執行委員ら自治会有志だ。

 クラス世話人の1人として、4・26の〈授業放棄〉 に段取りをつけた志朗だが、 真っ向から安保反対に立ち向かう意思は無かった。ましてや、全学連の主流と反主流の対立・路線の違いなど、まだ全く理解できない。だから、半ば流れに沿う形で大講堂の中に入った。

 そこは、昼自治会の中大決起集会だった。評論家の羽仁進氏が壇上に立った。参加した約600人は、壇上の活動家に合わせ、こぶしを上げて「アンポ・フンサイ」を叫んだ。午後1時すぎ、一団は大講堂前の路上に集結し、近くの明治大の学生たちが合流した。その道路を挟んだ向かいには、 日本大の理工学部と歯学部があるが、ここの学生の姿はなかった。

「日大は全学連のデモには出ないのかなぁ」
 志朗はそんなことを考えながら、生まれて初めてのデモ隊に加わって、 国会近くのチャぺルセン夕―前へ歩いた。

 一方、志朗は知らないが、中大自治会有志500人は、同じころ清水谷公園に向けて出発。東京教育大や都立大など1万5千人が集結する、安保阻止全都学生統一集会に臨んだ。一行は参議院議員面会所に赴き、社・共両党の代議士に1人ずつ請願書を手渡した。

 この日、全学連の安保反対デモは、完全に分裂したのだ。
 さて、志朗が参加したチャぺルセン夕―前の全学連デモ隊だ。東京大や早稲田大など18大学7千人は、国会方向へ移動を開始。志朗も一緒に進んだ。ところが、目の前には警官隊が装甲車を並べて阻止線を築いている。

 警官隊の後ろには、右翼とおぼしき白ハチ巻き姿の男たちが数百人いる。6尺棒に日の丸の小旗をくくりつけている。上京して1ヵ月の志朗、新たな現象に出会うと〈ハラハラ・ドキドキ〉の刺激に高ぶるが、この時はこれまでとは全く異質な、限りない〈恐怖〉が募ってくるのだった。

「これから、どうなる?」
 志朗は、わが身が主役の〈戦慄ドラマ〉におののいた。

―――つづく=毎週水曜日に更新します

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