駿河台の記者たち⑮

駿河台の記者たち[15]

長瀬千年・作

 

60年安保

〈4・26安保反対〉へ向け、志朗らクラス世話人の話し合いが始まった。場所は大学本館ビル地下一階、大フロアの学生食堂だ。今西が1杯20円のうどん、松本は30円のラーメン、大原は40円の定食、志朗は30円のカレーライスである。

「ほんまに授業放棄、できよるんやろか?」
「クラスの大体はねぇ、安保には反対のようだけどねぇ、いざ行動となるとねぇ、尻込みしちゃう雰囲気なんだよねぇ」

「政治問題は力と力のぶつかり合い、という感じ。僕は苦手だなぁ。あの大錦委員長が選ばれた連合自治委員会(連自)だって、全学連への加盟をめぐって大荒れ。暴力沙汰もあって、 一度流会した末の選出だというよ」
「えっ、その話、もうちょびっと間かせてちょうよ」

 まず大阪の今西が口火を切り、東京の松本から大原へ。大原が友から聞いたという〈自治会紛糾〉の話題が出たので、最後に岐阜の志朗が興味を示した。生まれ育った環境が異なる4人が、クラス委員として自治会の要請どおり、どう〈4・26授業放棄〉へ持ち込むか、である。その出だしで、全学連の加盟をめぐる昼自治会の紛糾を聞き及んだから、まずその問題から把握しておく必要がある。

 昼自治会の紛糾とは、こういうことだ。

大原が話した連自は昨年11月、午後1時から学内の教室で開会。全学連加盟に反対する当時の委員長ら執行部の7人が、冒頭に辞表を提出。だが認められずに続行した。混乱の中で11・27と12・10の安保反対統一行動に〈全学完全授業放棄〉~を提案。賛成63、反対16、保留12で可決された。

 次いで大錦書記長(当時)が〈全学連加盟〉の方針案を説明。 これに対し、〈反共白門会〉や旧〈正常化を願う会〉が、激しく議事妨害して紛糾。午後11時すぎ〈閉会動議〉が出されたが、否決され、さらに〈即時採決〉の動議も否決。結局、全学連加盟問題と役員改選を残し、午後11時すぎにこの日は閉会したという。

 執行部はその後の中央執行委員会で、全学連の加盟は翌年春に延期~と方針を転換。12月初めに連自を再開し、ようやく積み残した役員改選で、大錦委員長を選出したというのだ。

「へえー、そうやったのか。話の中の『旧正常化を願う会』って、なんやろう?」
 志朗が大原に尋ねると
「さぁー、何だか、右翼系の学生一派だということだよ」

 右翼系? 左翼に対する呼称を右翼と言えば、安保に賛成? 戦争になってもいいという人たち? 志郎にはまだよく理解できなかったが、いずれにしても、大学ともなればもう社会と同じ。さまざまな考え方の人が主張し合うんだなぁ。高校時代とは全然違う~と、志朗はますます興味をかき立てられた。

 しかし、ともあれ当面はクラス討論だ。新聞は連日、京大や東大の教官有志の国会請願などを報道。全国タクシー運転者連合会が、300台連ねて〈安保反対〉を訴えれば、群馬商工団体の商店600軒が閉店ストまで打ち出した。目本列島の〈安保反対〉のうねりは、もはや止まらないという情勢だ。

 そして、4・26安保改定阻止国民会議第15次統一行動の日。志朗らのクラスは2次限目の英語の授業時間中に、ようやく〈授業放棄〉の可決にこぎつけた。これから先がどうなるか、4人には全く見当がつかない。それでも、ともかく授業放棄の方向を打ち出せて、ホッと一息ついた。

―――つづく=毎週水曜日に更新します 

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