集団的自衛権を問う

 2015年は多くの節目の年になるとは、よく耳にすることである。日本を取り巻く情勢は変わりゆき、第二次世界大戦終戦からも70年の年月が流れようとしている。この節目の年を前に、昨年7月、政府は集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行った。翌日の新聞各紙はこれをさまざまに報じたが、そもそも集団的自衛権とは何か、はたしてどれほど知られているであろうか。今回は集団的自衛権とは何かを、過去の解釈や日本国憲法第9条との兼ね合いとともに、述べていきたい。読者の理解の一翼を担うことになれば幸いである。

 集団的自衛権と類似するものに個別的自衛権というものがある。日本国憲法第9条は戦力を放棄しているが、一般には「独立国として国の生存を維持するための自衛権の行使までを放棄しているわけではない」と解される。ここでいう自衛権とは自国に直接の攻撃があった場合にのみ反撃ができる、という権利であり、これを個別的自衛権という。一方の集団的自衛権とは、もっとも一般的に定義すれば「第三国から直接攻撃を受けていない国が、その国と密接な関係にある国のために自衛権を行使して、反撃を行うことができる権利」のことである。ここでよく例示されるものでは、「自衛隊とともに活動するアメリカの艦艇が他国から攻撃された場合、自衛隊が米艦艇を守り、反撃できるか」というものがある。集団的自衛権の行使を不可能としてきた従来の政府の立場に従い、上記の定義にこの例を当てはめると、『「第三国から直接攻撃を受けていない日本(の自衛隊)が、日本と密接な関係にあるアメリカ(の艦艇)のために自衛権を行使して、第三国に反撃をする」ことは、憲法第9条が禁止しているため不可能である』ということになろう。これが戦後政府が貫徹してきた立場である。

 こうした従来の政府が続けてきた解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行ったのが安倍政権である。では、安倍政権の狙いは何であろうか。

 今回の閣議決定に際し、野党の多くが懸念を示したのは「行使容認によってアメリカとともに戦争に参加することになる」ということである。集団的自衛権の行使容認に伴い、アメリカが第三国から攻撃された際には、日本もその密接な関係ゆえに自衛権を行使し、アメリカ軍とともに応戦が可能になる、というものだ。確かにその可能性が生じたことに間違いはない。しかし、その危険性を覚悟してまで安倍政権が行使容認に動いたのには、しかるべき理由があろう。その理由は、日米同盟の強化だ。
 
 「同盟のジレンマ」という言葉がある。同盟国間には「同盟国の戦争に巻き込まれる恐怖」と、「同盟国に見捨てられる恐怖」がある。従来の政府の解釈では、たとえ目前のアメリカの艦艇が第三国から攻撃を受けても、日本は米艦艇を守ることができなかった。これでは万一にも日本が第三国から攻撃を受けた場合、アメリカが日本を守るために行動を起こすかどうかは疑わしい。アメリカとの同盟強化のためにも、新たに集団的自衛権の行使を容認し、日米双方で平和と安全に協力しよう、というのが安倍政権の安全保障上の狙いである。今回の閣議決定は「同盟国の戦争に巻き込まれる恐怖」の増幅と引き換えに「同盟国に見捨てられる恐怖」を軽減させた、といってよいだろう。

 一方、集団的自衛権の行使にはまた別の側面も存在する。それは日本の周辺国が侵略行為などを受け有事の際、その侵略行為が日本の平和と安全を脅かす場合に、日本が周辺国とともにその侵略行為を阻止し、日本の存立を守るという意味での自衛行為である。より具体的にいえば「日本の周辺国AがB国による侵略行為を受け、そのままにしておくと日本にまで侵略が及びかねない事態に至ったとき、日本がA国と協力してB国の侵略を阻止し、日本の平和を回復する」という場合である。個別的自衛権では直接日本が攻撃を受けない限りは自衛権を行使できなかったが、集団的自衛権の行使を容認することで、周辺国から救援要請があった場合は、その周辺国とともに自衛権を行使することが可能となる。

 集団的自衛権というとアメリカとの活動というイメージが先行しがちだが、それだけではないさまざまなケースに対応しうるのである。そしてこうした連携を強化しておくことが抑止力につながり、平和と安全が維持されるであろうことに異論はないはずだ。
 
 しかし、集団的自衛権の行使を容認することで、世論が戦争に傾いた場合、再び70年前の惨禍が繰り返されるのではないかという不安や、自衛隊の危険が増すという懸念、また戦争に参加しないという日本の平和国家としての歩みが転換する契機になるではといった危惧の念を抱くことも、禁じ得ない。さらには一内閣の決定で憲法の解釈を変えることができるというのもはなはだ疑問である。

 2015年という節目の年を機に、日本の直面している諸問題について各人が意見をもつことが重要になるだろう。

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