波紋

「我々の持っている天性で、徳となり得ない欠点はなく、欠点となり得ない徳もない」とはゲーテの名言だ。言い古された言葉だが、実感するのは意外と難しい◆一般的に「欠点は直し、長所は伸ばしなさい」と教えられて育つ。短所は短所でしかなく、直すよう努めるべきだが、どうしても消せなかった短所はあたかも長所であるかのように言い換えて誤魔化しましょう、そんな意味で冒頭の言葉が使われることすらある◆現代の就職活動で最も求められる力は「コミュニケーション能力」だそうだ。裏返せば、それを持たない人は不要ということか。自他ともに認める「コミュ障」、つまり極度の人見知りに悩む私は、ある社交的な編集者に相談できる機会に恵まれた。緊張して喉はカラカラ、息は絶え絶えで涙目になりつつも、社交的な人間になるためのコツを教えてもらおうと勇気を振り絞ったが、意外な答えが返ってきた◆「人見知りをするのは人の気持ちに敏感な証拠。長所と短所は対になっているから、短所を無理やり失くすと裏にある長所も一緒に消えてしまうよ。短所も長所も一緒に目一杯、伸ばしなさい。そういう大きくて魅力的な人間になる方がいい」◆目から鱗である。単に私の憐れな姿を慰めたくなって出た言葉かもしれない。だが、確かに「私はちっとも緊張しない、なぜ緊張するのかわからない」と威張っている人は、何か大切なものを忘れてきているようにも思う◆自己分析だ、自己アピールだ、とまくし立てられる中で、かえって自分の個性を見失うことがあるかもしれない。そんな時は自分の短所を見つめ、裏にある長所を探すのも良いだろう。大きな短所には大きな長所が隠れていると信じたい。

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