第六回 日本の中心で世界を歩く~駐日パレスチナ駐在総代表部

ワリード・アリ・シアム駐日パレスチナ大使
<ご略歴> 1955年6月1日生まれ。パレスチナ国際協力計画省北アメリカ課長、日本アジア課課長等を経て2003年より現職。また、駐日アラブ外交団の団長も務める。


 東京にある大使館をめぐり、世界との相互理解を深めようという趣旨から始まった本連載コーナー「日本の中心で世界を歩く」の第六回目となる今回は、駐日パレスチナ常駐総代表部(大使館級)に取材をお願いした。以下にその模様をご紹介するが、パレスチナ大使ご自身によるご対応をはじめ、手厚くもてなして下さった関係各位にはこの場を借りて深く感謝の意を表したい。

―貴大使館のご活動とは。
「我々の大使館は、日本とパレスチナとの関係を保つ役割を果たしています。1976年にPLOの駐日オフィスとして東京に事務所を置いて以来、我々は日本で活動をして参りました。たとえば文化やスポーツの他、政治的、経済的な交流なども担っていますね」

―パレスチナ問題の始まりは、イギリスの外交政策に原因を求められると思うが。
「そもそもこの問題には、イギリスだけでなく日本も関係しています。第一次世界大戦後の1920年に、イギリス、イタリア、フランス、日本などが参加した『サン・レモ会議』が開かれました。これによって、イギリスがパレスチナを委任統治することが決まります。その後、元々住んでいたパレスチナ人には何の断りもないまま、我々の土地にイギリスがユダヤ人の国を作るということを決めてしまいました。というのも、その頃の西欧ではユダヤ人が迫害されており、またイギリスもユダヤ人の扱いに困っていたのです。そこでユダヤ人をパレスチナの地に追いやれば良いという話が出て、現在のような状況が生み出されることになりました」

―PLO成立当初は、イスラエル国家を打倒したうえでパレスチナの地に非宗教的な民主国家の樹立を目指していたそうだが、現在ではどうか。
「PLOが、パレスチナからユダヤ人を追い出そうと考えたことはありません。我々は、元々パレスチナの土地であり現在は占領地となっている地域を、イスラエルの統治から解放したいと考えています。つまりパレスチナ人は、イスラエルを占領者として認識しているのです。歴史的に言えば、1993年にオスロ協定が結ばれた際、我々は初めてイスラエルを国家として認めました。尤も、イスラエル側からは、パレスチナという国は存在していないと見做されています。
何れにせよ我々は、パレスチナを『宗教フリー』の民主国家にしたいと考えています。PLOにとっては、ムスリムもキリスト教徒もユダヤ教徒も、みんなが平等に暮らせる国家を作りたいということが、目標の根底にあるのです。しかし、イスラエル側は違法に分離壁を建設し入植地を拡大しているため、2013年現在ではパレスチナの国土の8パーセントのみが、我々の手に残されているだけとなっています。時間が経てば経つほどにパレスチナは段々と不利になっていますし、最終的にはイスラエルがパレスチナ人を追い出そうとしていることは明白です。
ですが、我々はパレスチナ人とイスラエル人とによる『二国共存』は可能であると信じています。それにこの地域には、二国が共存することでしか平和は訪れないとも考えています」

―パレスチナの政権与党であるハマスが同性愛者は認められないとする声明を出したことに対し、欧米などからは反発も相次いだが。
「我々人間は、全く同じスーツを着て同じネクタイをして同じサイズの服を着る、などということはありませんよね。このように、私たちは欧米などとは違った宗教、文化、伝統を持っています。それを無視した形で、ヨーロッパでは同性愛が認められているからといって、それを文化や伝統がまったく異なる中東でも同様に認めろというのは間違ったことだと考えます。こういった一方的な考え方は、時に傲慢であるとも思いますね」

―大使ご自身は、宗教問題であるとされるパレスチナ問題を、どうすれば解決できると思うか。
「イスラエルとパレスチナとの紛争を宗教問題だと言う人もいますが、それは誤りです。なぜなら神様は彼の創造した全ての人に全てのものをお与えになったため、限られた人だけにこの土地を使いなさいとは言っていない筈だからです。
ところで、この問題の解決策はとても簡単なことだと思います。早い話が、『二国共存』です。イスラエルが1967年時点の国境に戻ること、エルサレムを東と西とで分けて互いに共存すること、そして領空領海すべてに対してですがパレスチナの独立を認めること、です。これさえ果たされれば、パレスチナはイスラエルと共存できると思っています」

―領土問題に関する経験者として、日本にアドバイスを。
「とにかく、交渉が大事です。何よりも、机について話し合うことですね。
そもそも領土について争うという事自体、間違っていると思います。歴史を通じて人間は土地のために争い、これを奪いあって来ました。なぜ多大なる損失を出してまで、土地に固執するのでしょうか。歴史を振り返れば領土問題というのは常に存在していて解決はなかなかしません。それに、戦争をして土地が自分のものになったとしても、数十年後には再びその土地を失っているかもしれません。力をもって土地を奪うというのは、やはり間違っています」

―パレスチナに関して、日本人に広く知って欲しいことは。
「何よりもまず、パレスチナはとても友好的な国であり、人々もとても穏やかであるという事ですね。パレスチナには美しい国土と美味しい食事があり、様々な宗教の聖地も存在しています。そのような聖なる土地は、平和な土地であるべきですよね。しかし、現在は軍事支配の下にあるということも、知っていて貰いたいと思います」

―日本の大学生に向けてメッセージを。
「『読みなさい、読みなさい、読みなさい』です。これはコーランの教えにある言葉ですが、携帯やiPadを見るのではなく、本を沢山読み、世界中を旅行して、見聞を広めて下さい。日本の学生は余り世界に出たがりませんが、あらゆる地域に行き、世界でいま何が起きているのかを知るべきです。また、『自分は何もできない』と思い込むのではなく、様々なことに取り組みましょう。ガンジーやアインシュタインは、たった一人で世界を変えたのですから。そして、どうかパレスチナへの支援も、忘れないようお願いしますね(笑)」

「パレスチナ」という言葉は、我々に「自爆テロ」や「イスラム過激派」といったおどろおどろしい文句を連想させる一方で、実際のパレスチナには美しい景観が広がっており、また複数の宗教にとっての聖地をも擁している。今なお混迷が続くイスラエルとの対立は確かに有るが、そこに生きる人々は我々と同じように、日々のささやかな幸せを求めているだけだ。この問題に対して日本は、そして我々は、どのような取り組みが出来るだろうか…。
大使のお話にも有ったように、皆さんも若い内に一度、実際にパレスチナの地へ足を運んで、自分の目や耳で確かめて欲しい。(蓮・夏・谷・進)

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