竹内健教授 新型ハイブリッドSSD開発


 平成24年6月 、中央大学理工学部の竹内健教授が、新型ハイブリッドSSDを開発し話題を呼んだ。そこで当会では、教授にお話を伺った。

竹内健 理工学部教授
昭和42(1967)年、東京生まれ。平成5(1993)年に株式会社東芝へ入社、平成15(2003)年にはスタンフォードビジネススクール経営学修士課程修了(MBA)。平成18(2006)年、東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻論文博士取得(工学博士)。平成19(2007)年に東芝を退社し、現在は中央大学理工学部電気電子情報通信工学科教授。



―新型SSDとは。
「新型SSDの前に、まずは予備知識が無い方のためにSSD(フラッシュメモリドライブ)のことから段階的に説明致します。そもそもSSDとは、私達の身の回りにある多くの機械製品に使われている、データ保存装置のことを指します。従来、データはフラッシュメモリという媒体に記憶させていましたが、これは、“大容量だけれども遅い”という特徴を持っていました。これを受けて現れたのがReRAMという新しい媒体で、こちらはフラッシュメモリと比較して“高速、しかし容量が小さく価格も高い”という問題を抱えていました。要は一長一短だったわけです。
 そこで出てくるのが、『両者の良いとこ取り』を目指した新型ハイブリッドSSD、というわけです。これは保存されるデータの特性を判別してフラッシュメモリとReRAMの各々に、適切にデータを分配する独自のアルゴリズムを組み込むことで実現しました。
 そしていくら性能がよくても他が駄目では実現されませんので、電力や寿命についても開発に尽力し、最終的には高性能、低電力、高寿命の三つを現実のものとしました」

―実用化への目途や消費者にへのメリットは。
「新型ハイブリッドSSDの開発はReRAMの開発と同時進行でやっているので、実用化は2~3年後を目処に考えて頂ければと思います。
消費者にとってのメリットについては第一に、皆さんがお使いのスマートフォンや携帯電話のバッテリーが長持ちするという点が挙げられます。
次に、間接的な話になりますが、今回の技術を使えば従来と比較してデータセンターでの書き込み回数が1/7に激減されますので、それが機械の耐数年度を上げてコストを抑え、結果的に消費者に安い商品を提供できるようになることが考えられます。企業にとっても消費者にとっても、今回の開発は大いに役立ってくれると思います」

―教授ご自身について、今回の開発にしても大学卒業後の進路にしても、そのエネルギーやフットワークの秘訣は。
「一言で全てを語ることは出来ませんが、自分の興味や関心に忠実になって好きなことを続けてきたからそういう風に見える、というのが正しい物言いでしょうか。元々、言われたことをただ単にやるのは自分に合っていませんでしたし、人の下で働くのも得意なタイプではありませんでした。
 そういう個人としての資質も混ざり合って、第三者からはエネルギッシュに見えるのかもしれません。フットワークについては私の経歴を交えて説明します。
 私は技術者としてMBAを取得後、帰国して再び日本の年功序列型社会で働き始めました。ですが、暫くして私を待っていたのは昇進のための“椅子待ち”でした。そして、これでは会社を改革するどころか列に並んでいるうちに疲れ果ててしまうのではないかという思いが、自分の中に生まれました。
 また、列の最前線にいる人たちが純粋に、尊敬できるような人物とは言い難かったということもありました。そして何より自分の成長に、鈍化を感じてもいました。そして、そんな折に頂いた大学教授へのお誘いを受け、現在に至りました。ですので、特別にフットワークが軽いというわけではないと思います」

―学生に何かメッセージをお願いします。
「私から皆さんに伝えたいメッセージは二つあります。一つ目は自分の興味や関心をスタート地点に据え、基礎基本を今のうちにしっかり確立してほしいということです。今の時代、一つの専門分野に安住していては生き残ることはできません。だからといって基礎基本が出来る前に四方八方に手を出していいというわけでもありません。しっかり学べる今この瞬間を大事にして、じっくり一つの土台を作ってほしいと願っています。二つ目は、学生の皆さんにはまだ早いかもしれませんが“境界を越える”ことを躊躇しないでほしいということです。時代の変化によって一つの地に安住できないことは既に述べた通りです。世間一般では“向こう見ずな人間ほど危険”というのが定説ですが、私は敢えて“慎重な人間こそリスクが高い”という考えを提唱したいです。
これからの時代がどう変化していくのかは分かりませんが、皆さんには是非この二つを念頭において学生生活を送っていただければと思います」

―本日はお忙しい中、有難うございました。(洋)

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